真昼の月
いつまでこうしているんだろう
いつまでこうしているんだろう。
ひじの内側を流れる黒い赤を見つめて思う。

なにがあたしをこうさせているのかわからない。ただ、自分を失いそうになるたび、こうして痛みで、自分をこちらがわに引き寄せてきた。

 切っているうちは、痛みを感じない。

それに気がつくのは、海の引き潮がこちらがわに戻ってくるみたいにだんだん自分が現実に引き戻される瞬間だ。

 赤く錆びた古い釘の塩辛い匂いが部屋にたちこめてくる。その匂いで、ああ、またやったんだな。と気がつく。血を止めて、床を拭きとることさえ考え付かない。

暗く閉ざした遮光カーテンの隙間から、午後の陽射しが漏れてくる。
どろりとしたガーネットいろの液体が光を吸収する。

突然思い立って、机の上のPCに接続されたままのデジタルカメラを取り上げる。フラッシュが焚かれて暗い赤が浮かび上がる。
なんだか、恍惚としてしまう。これがあたしの血。自分の生きている証。何度もフラッシュを焚くたびに、流れ落ちる血液の量が増えていく。 床の絨毯に沁みき、次第に盛り上がる。

汚れを気にして、生理の血液を漂白する洗剤をブラシにつけて叩けば問題ないかなぁなどと、主婦みたいな考えをめぐらしていると、携帯が鳴った。出ないでいると 伝言メッセージに聞き覚えのある声がする。
< 1 / 60 >

この作品をシェア

pagetop