真昼の月
ラインを切ると深々とした夜が押し寄せてくる。眠ろうと思っても眠れない。

これから明け方までが一番辛い時間帯だ。からだは憔悴しきっているのに頭だけが冴えて錐のような覚醒が襲う。もう切る気力もない。

虚脱感が押し寄せる。壁に寄りかかって手をだらりと下げてそのままでいる。涙も出ない。ただ乾いている。ひびの入った心が微かにきしむ。隙間がだんだん広がっていく。この隙間はなにをもって充填できるのだろう。あたしは空っぽだ。もう何もない…… 生きる希望も、命にすがる力も、もう尽き果てている。

トモが死にたいなら付き合ってもいい。あたしには何もない。最後にあたしができることはトモの望みをかなえてあげることなのかもしれない。それでトモが救われるなら、あたしも救われるのかもしれない。何もできなかった女の子が最期にできることといったら死にたい人に寄り添って最期の時間を共有することでしかないのかもしれない。

「トモ……あたし死んでもいいよ。もうねえ疲れちゃった。あたしはいらない子なのに、最期にあたしを永遠に招待してくれてありがとうね。あなたがあたしを必要としてくれるなら、あたしにはそれが一番いいこのような気がするよ。トモ……一緒に死のうねえ。あたしも病院に行くよ。病院に行って薬を貯める。だってトモの薬だけじゃ致死量に足らないかもしれないものね……」

目尻を一筋の露がたどる。あたしは目を閉じて、まだ見たことのない彼の面影を作り出してみる。顔がわからないけど、痩躯で繊細な感じがする。指が長くて掌が大きい。その指で彼はあたしの髪をなでる。
抱きしめて乳呑児をあやす母親のようにいとおしげに愛撫する。それだけしてくれたらもう、何もいらない。一緒に行けるよ。永遠という場所まで。
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