真昼の月
病院
「それじゃあほんとに診察受ける気になったのね」
電話の真理子さんの声はうれしそうだった。
「はい」聞き取れるか取れないかの小さな声であたしは答えた。
「よかった」
でもそれは病気を治すためじゃなくて、薬を貯めるためなんです……あたしはちょっと後ろめたい気持ちになる。真理子さんを騙すことになるからだ。
「それで……お願いがあるんです。真理子さん一緒に行ってくれますか?ひとりじゃ心細いんです」
「もちろんよ。じゃあわたしのほうから病院に連絡しておくから。聖羅ちゃんはいつが都合がいいの?」
「わたしはいつでもいいです。真理子さんの仕事の空き具合に任せます」
「わかったわ」
「お父さんも一緒のほうがいいかしら」
「父は……いいです。余計な心配掛けたくない」
父が来たらおそらく厄介なことになる。病院に通うことになったらあたしはうちに帰されて、監視の目を向けられるだろう。父は放任主義の癖に、子供に対しては世間体を押し付ける人だから。
「真理子さんのほうが頼みやすいから」
「もし聖羅ちゃんさえよければ明日でもいい?」
「ええ。いいです。こんなお願いしてしまってごめんなさい」
「そんなことはないわよ。ねえ聖羅ちゃん生きているうちにはいろんなことがあるわよ。あなたまだ若いんだし、気を使うことなんてないのよ」
「はい」
素直な子供みたいに殊勝げに返事をした。
「じゃあ明日の午前中そちらに迎えに行くわね」
「はい。お願いします」
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