真昼の月
「外、天気いいよ」

麗が言った。「少しお散歩しようよ」

「さんせーい」杏奈が手を上げた。

「いちど病室戻ってお花置いてこよう」

あたしたちは腰を上げた。
「今度ペーパーフラワー作ったら聖羅ちゃんにも上げるね」と麗が言ってくれた。
あたしはうれしくなって「ありがとう、楽しみにしてるね」と笑った。




毎日が淡々と過ぎていく。
開放病棟に来て7日目、真理子さんが訪ねてきてくれた。

「ごめんね。もっと早く来たかったんだけど、先生が面会させてくれなくて。お父さんが何度か病院に足を運んで
カウンセリング受けていたの」

「そうだったんですか」

「聖羅ちゃん、ごめんなさいね」

「え、何で真理子さんがあやまるんですか?」

「浩二のこと、あなたのお父さんのこと許して欲しいの」

「意味がわからない」

「ごめんなさい。今の言葉忘れて」

「はい」

多分真理子さんは父の暴力のことを知ってしまったんだと思った。
カウンセリングを受けているときに同席していたんだろうか。
あたしはそのことを尋ねてみた。

「違うの。あたしは同席しなかったけど、お父さんのほうから昔の話をしてくれたの。お父さんも暴力を振るう自分が許せなかったんだって。あなたのお母さんはうつ病で何度か病院に行っていたらしいの。でもうつ病ということをお父さんは理解できなくて、辛く当たったって言ってた。ちょうどその頃お父さんは独立しようとしてて、
仕事が忙しくてお母さんの病気を理解する心の余裕がなかったの。お母さんは寂しくて仕方なかったのね。昔勤めていた会社の同僚の年下の男の人と駆け落ちしてしまったんだって。お父さんは仕事とお母さんの病気の板ばさみになってストレスが溜まってお母さんに暴力を振るってしまったって言ってた」
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