真昼の月
ちょっと綺麗事はいっているような気がしたけど、
あたしは了解した。過去のことを言われてもあたしにはどうすることもできない。
あたしは父の行動を許すとか許さないとかそういうことではなくて、
もっと直に自分を理解して欲しかったんだと思う。

「真理子さん・・・・・・」

真理子さんは泣いていた。

「あなたをひとりにしてごめんなさいね」

「もっとあたしがあなたの気持ちに敏感になっていればこんなところに入れさせなかった。聖羅ちゃんはしっかりしたいい子だと思っていたから」

「そんなことないです。あたしはしっかりなんかしていません。自分が何者かもよくわかってないし、何が好きで何が嫌いかもわからないんです」

父が怖かった。だから父の言うとおりに生きてきた。だけど心の中ではいつも父のぬくもりを求めていた。

母はわずかなぬくもりを教えてくれていた。
3歳のあの日、遊園地に連れて行ってもらって、ミルク色の風船が空に逃げていくのを二人して見つめていた。そのことだけであたしは母を忘れなかった。小さくても母が辛いのは充分承知していたから、何も求めなかった。母は居るだけでよかった。
居てくれるだけで。

あたしは真理子さんにそのことを話した。

真理子さんは白目を赤くして頷いた。
「真理子さん、そんなに泣くとウサギになっちゃいますよ」
真理子さんは笑った。そして「聖羅ちゃんはいい子ね」と言ってくれた。
真理子さんが来てくれたおかげであたしは、週末に二日間外泊できることになった。
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