真昼の月
その人が今目の前にいる。あたしはどぎまぎして、「いらっしゃい」もいえなかった。
食事は近所のすし屋から取った特上のおすしだった。
「聖羅の進学祝もかねて」父はそういって乾杯の音頭をとった。
父と真理子さんは白ワイン、あたしはウーロン茶。「おめでとう」何がめでたいんだか。この二人結婚でもするのか……
と思ったとき、「実は…」と父が言いにくそうに切り出した。

「お父さん、真理子さんと結婚しようと思っているんだ」

「へえ……」

あたしは驚いた。寝耳に水ってこのことだ。

となりの真理子さんを見ると神妙な顔つきになっている。だけど美人は神妙な顔も魅力的だな。

この人があたしの義理のお母さん……

「随分急だね」

「急じゃないよ」と父は言った。

あたしにとっては急なんだよ。大人はいつも自分たちの都合だけで物事を決める。
あたしが受験でうんうん唸ってたとき父はよろしくやっていたわけだ。

「おめでとう」

あたしは無愛想にそう言った。
あたしがいやと言ったってどうすることもできやしない。物事はいつもあたし抜きで運んでいく。あたしの気持ちはいつも宙に浮かぶ。宙ぶらりんでどうしようもない気持ちを誰に吐き出していいのかわからない。

父には真理子さんという伴侶がいる。でもあたしに父はいない。父の気持ちは真理子さんで埋められているから。

じゃああたしの存在ってなんなのだろう。あたしはいらない子かもしれない。本当に。
あたし抜きで物事が運んでいくなら、もうあたしをだしに使って、偽善めいたことをするのはやめて欲しい。

「今すぐ結婚するわけじゃないのよ聖羅ちゃんが高校生活が落ち着いて受け入れられる気持ちになってからでいいから」

真理子さんはそう付け足した。

「いえ、いつでもいいですよ」

あたしはそういって満面に笑みを浮かべた。
こういうの、大人はお好きだからな……

「おめでとうございます」偽善の笑顔。

茶番だ。あまりにも茶番なので付き合っていられない。

「それじゃあお邪魔虫は消えますんでラブラブモードはその後で」

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