真昼の月
あたしが手首を切るのは今に始まったことではない。一番最初に切ったのは中学2年のとき。父には内緒にしていたけどいじめにあっていた。二学期に同級生のある男の子と席が隣同士になったせいで、ひそかに彼と交換日記をして付き合っていた隣のクラスの女の子から目をつけられ、その女の子と中が良かったクラスのリーダー格の女の子から無視されるようになった。

最初はおはようと声をかけても、返事をされなくなり、次に体育の授業でペアになるときにあぶれるようになり、靴を隠され、戻ってきたときはカッターナイフで切られていたり、最後にはカツアゲに近いことまでされていた。

もっともあたしも下手な脅迫には乗らなかった。お金を強要されても無視できたし、リンチにあいそうになっても同級生のほかの男の子をボディガードにつけるくらいのことはできたから危険を何とか回避できたのだ。

どういうわけかあたしは男の友達には恵まれた。

オヤジというあだ名のガタイの大きな男の子と仲が良かったので力ずくの暴力にあいそうになるとすぐ助けを求めることができた。オヤジは先生方にも、女の子たちにも一目置かれる存在で、もし彼がいなかったら、あたしはもっと早い段階で自殺を断行していただろう。彼には感謝するが、友達以上の感情はこれっぽっちもなかった。もっとも、オヤジのほうでもそうで、彼は困っている女の子がいたらあたしでなくても助けるという義侠心に満ちた、本当にいいやつだったのだ。
 
それでもあたしは辛かった。無視されたことがある人はわかると思うけど、あれはある人間の存在を抹消することだ。精神的な殺人に近いといってもいい。

あたしはみんなに殺されていた。たくさんの人間の念いがあたしを刺し殺していた。
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