真昼の月
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お前なんか死んじゃえ……
授業中にそんなメモが回って来たこともある。悔しくて唇の端が震えた。涙がほほを伝いそうになるのを奥歯を噛み締めてじっとこらえた。噛み締めすぎてこめかみが痛くなる。授業中にもかかわらず、あたしは席を立った。受け持ちの担任の英語の時間だった。行き成り立ち上がったあたしに「どうした、高幡?」
と担任が声をかけた。

「質問でもあるのか?」

「気分が悪いので早退します」

教室内はシーンと静まり返った。

「気分が悪いなら保健室……」と担任が言いかけている途中で机の中の教科書をかばんに入れ終え、教室を後にした。

たしか、担任が追いかけてきたかと思うのだがあたしは陸上部からスカウトが来るくらい足が速かったので、そのまま走って家に逃げ帰った。

家に帰って部屋に飛び込むなりあたしは机からカッターナイフを取り出して一気に手首を切った。かなり深く刺さったと見えて、血がぶくッと溢れ出してきた。

痛みはなかった。ただぞっとするような快感が電流になって走った。まだ生きている。

そうなのだ。あたしは生きている。こんなに血が流れているもの。奇妙な安心感があった。どくどく流れ落ちるあたしの血。あたしは生きている。誰がなんと言っても生きているんだよ。これをクラスの女子全員に見せてやりたいと思った。

「あたしの血。あんたたちが殺しかけてるあたしの血!! あたしはここにいる。あたしはここにいる」涙が横溢する。

「あたしはここにいる。誰がなんと言おうがあたしは存在(いる)んだ」絶叫に近い声であたしは叫ぶ。息が上がる。

次第に興奮が高まって過喚起の発作を起こしその場に倒れこんでしまった。

意識が遠のく。発作だけでなく、失血も入っているかもしれない。あたしは死ぬのかな。
このまま死ぬのだろうか……死ぬのなら死んでもいいよ、あたしはいらない子なんだから。
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