夏の日の終わりに
「ぐ……んん……」

 僕のうなり声にベッド脇でウトウトしていた父親が目を覚ます。下半身の激痛は尋常なものじゃなかった。

「薬が切れたか?」

「うん……痛み止め……頼んでよ」

 父親はベッド脇のライトを点けると、ナースコールを押した。小さい頃から「痛い」などと口にするだけで「男がそんな事言うな!」とぶっ飛ばされたものだが、随分と人間が丸くなったものだ。

 手術には相当な時間を要した。朝から始まり、この病室に戻って来た時はすでに深夜になろうとしていた。

 そして麻酔が切れた頃から、激痛に身を捩じらせているこの状態が続いている。

「あまり過度の痛み止めは体に影響しますから……」

 確かにもう何度も看護師を呼んで幾度目かの痛み止めの要求だ。やってきた看護師はそう言って拒んだ。

(お前がこの立場になってみろよ)

 暗に我慢を要求してきた看護師に、そう心の中で毒つく。自分では痛みを我慢することに強い耐性があると思ってきたが、それでもとても耐えられない。

「何とかなりませんか?」

 その父親の言葉は僕にとって意外なものだった。以前の父親ならば間違いなく「じゃあ我慢しろ」と言ったはずだ。その変化はきっと僕の将来に対する絶望から来ているのだろう。

「いや、我慢してみる」

 僕は「治る」と何度も言っている。それを受け入れてくれないことに少し意地を張り、下手な強がりを言ってみた。

(なんだよ、親父まで)

 そして朝まで、苦悶の声が途絶えることはなかった。
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