夏の日の終わりに
 いつの間にか一人、また一人と理子の元へ駆けつけてくる友人たち。

 それはいかに理子が皆から愛されていたかを物語っている。

「脩君、大丈夫?」

 一人うつむいていた僕は、その声で顔を上げた。

「妙子さん……」

 今にも泣きそうな顔で目の前に立っている。僕は椅子に座るように促すと、独り言のように投げやりな言葉を吐いた。

「結局、何にも出来なかった」

 いや、愚痴と言い換えてもいい。

「そんなことないよ。脩君は力になって──」

「気休めだね」

 僕を庇う声が、今はなおさら苦痛に思えてならない。僕は妙子さんの言葉を遮った。

「気休めだよ……」

 そしてまた黙り込んだ。はたから見れば滑稽な悲劇のヒーローだ。

 静まり返った僕らの前に、看護師が姿を現した。ひどく感情を抑えた声で一言告げる。

「ご家族の方、どうぞ中へお入りください」

 来る時が来たのか、それとももう……

 おばちゃんが険しい表情で席を立つと、他に腰を上げる者はいなかった。家族どころか、ここには親戚の一人も姿を見せてはいない。そこには複雑な家庭環境を垣間見ることができた。

「脩君、一緒に来て」

 おばちゃんの顔に覚悟が見て取れる。僕は無言で頷くと席を立った。

 もう静かになっているかと思っていた病室内では、まだ懸命な治療が行われていた。

(まだ生きている!)

 その光景に胸を撫で下ろしたのはつかの間だ。そこからさらに脈拍が弱まり、心拍数は限りなく低い数値を示してゆく。懸命に新たに薬品を注入する医師。看護師に次々と指示を与えながら消えようとする命を必死に繋ぎとめていた。


 僕はまだ何も伝えていない。何も与えてやれていない。


 もっともっと、たくさん──


(話したいこといっぱいあるのに!)


 ドラマや映画のシーンのように、最後の言葉を交わすことなどないのだろうか?

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