夏の日の終わりに

光明

 年が明けて一月を迎えた。

 コンコン、と軽く頭の後ろの壁を叩くとそれに答えるようにコンコン、と音が返ってくる。

 ちょうど僕の真裏には美香さんのベッドがあり、時々こうして何の意味もないコミュニケーションをとっていた。

 その美香さんの退院が明日を迎える。

 高校生だからというわけじゃないだろうが、僕にとっては確かに美香さんも恋愛対象に含まれている。そしてそれは淡い憧れだけにとどまる程度のものではなかった。

 不謹慎だと思う。

 でもそれがいつわらざる僕の気持ちだ。

 それでも美香さんに猛アタックをしている釘尾さんを知っているし、そのまま仲がよさそうに過ごしているのだから、きっとアタックは成功したのだろうと推測していた。

 その釘尾さんは先週退院している。今また美香さんまで居なくなると、ここもめっきり寂しくなるだろう。

 その最後のあがきが、今日の壁越しの会話を長引かせていた。

「おーい、もう夜中だぞ」

 隣の西村さんは、少し眠そうな声で注意する。確かにもういい加減迷惑な時間だ。

「ごめんごめん」

 そう言って壁に寄せた手を静かに下ろす。

 それきり静かになった病室で、僕は悶々とした一夜を過ごした。
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