夏の日の終わりに

輝く夜空

 窓から差し込む眩しい日差しで目が覚めると、昨夜の熱い余韻が身体をけだるく感じさせた。

 隣にはまだ目を覚まさない理子がいる。その寝顔がたまらなく愛らしくて、頬に軽い音を立てて唇をつけた。

「ん……」

 かすかに震えたまつげの奥からうつろな瞳が現れると、まっさきに僕を捉えて優しい光をたたえる。

「おはよ」

 それだけ言うと理子は改めて恥ずかしくなったのか、再び毛布の中に潜り込んでくぐもった笑い声を上げた。

「出て来いって……」

 その毛布を引き剥がそうとすると、さらに力を込めて丸まる理子。

「だって、明るいもん」

 昨夜あれだけ夢中になって体を重ねたにもかかわらず、肌と肌が触れ合う心地よさをもう一度味わいたくて、一緒にその毛布の中に潜り込んだ。

 毛布を通した光がわずかに理子の顔を照らしていた。その唇に吸い寄せられるように僕らはまた重なり合う。

(ずっとこのまま……)

 僕は心からそう願う。いまこの瞬間がすごく大事に思えてならないのだ。しかしずっと抱き合い、じゃれあって過ごす時間はそう長くは続かなかった。

 外で車の止まる音が聞こえる。

「え?」

 その音に反応したのは理子も同じだ。毛布を同時に跳ね上げると、お互い顔を見合わせた。

 確かおばちゃんを見送るときにこう言われたはずだ。

『お昼には帰ってくるからね』

 フラッシュバックした記憶が甘い世界から現実へと引き戻した。瞬間、ベッド脇の時計に目をやると、時刻は11時50分を指している。

(あいったー!)

 身体を纏っていた熱が一気に冷め、慌ててカーテンの隙間に目を寄せた。

「やば、帰ってきた!」

「どうしよ、どうしよ。あたしのパンツどこ?!」

「あ、そっちそっち! 俺のシャツは?」

 脚が思うように曲がらないのだから、とにかくパンツやジーンズを履くのには時間がかかる。一瞬にしてラブシーンから修羅場に変わった部屋の中、僕と理子は体をぶつけ合いながら服を着るのに必死だった。

「ただいまー」

 玄関のドアを開く音がすると、おばちゃんの声が階下に響く。

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