lacrimosa
(…バレたんだから大変なことになるのに)
「お嬢様、聞いてください。お母様が倒れて、病院へ…」
きまづそうにエレナのほうを向けば、彼女は眉尻をさげてそう必死に訴える。
だが、おかしなことにアンジェロの存在には気づいていないようだ。
(…どうして?目の前で私と並んでいるのに)
すぐさまアンジェロのほうを向けば、彼は全てを見透かしたようにウィンクを返す。
大丈夫、そう言っているような優しい目だった。
(…エレナには、…アンジェロが見えないの?)
「お嬢様…」
「わかった。しつこいなぁ。どうせまた過労でしょう?いつものことじゃない」
「ですが…」
「今忙しいの…。そんなことでいちいち部屋に入ってこないで」
問答無用の一本調子で彼女に目もくれずにエレナを追い返す。
エレナは何か言いたそうだったが、ぎゅ、と拳を握りそれを飲み込むと
「…失礼しました」
眉根を寄せて心配そうに急いで去っていった。