lacrimosa
笑顔で彼の元へ駆けつける。
ゆっくりと左手にかぶせた右手を開けば、そこに柔らかく佇むアンジェロの一部だったもの。
『これ、使えば元気になれるよ…』
けれど、アンジェロは力なく笑うだけ。
『それ、は…、サーシャがしあわせになるために…あげたものだよ』
首を振る動きも定かではなく、顔に近づけたサーシャの手のひらをゆるりと押し返す。
サーシャの眉が寄る。
口許を噛み締める。
悔しさ、故に。
(…なんで)
なんでこの男の子は解らないんだろう。
それが伝わらないからもどかしくて、悔しくて。
こうしている合間にも迫り来るものはあるというのに。
『だったら…、私を幸せにしてよ』
「え…」
『ずっと生きて、私を、幸せにしてよ!』
平静を保とうとしたのに、語気があがる。
想いのはけを手のひらに込めぬよう、細心の注意を払う。
柔らかな優しさが潰れてしまわぬように。
『…ねぇ』
どうしてわからないの。
「僕、死ぬなんて言った?」
冗談でしょ、と言うように笑い飛ばしたかったのだろうその顔は、失敗してただ苦痛に歪んだだけ。
憐れむのさえ、ばかばかしい。
『本当は自分で、わかってるんでしょ?』
最初から。それこそこの部屋に初めて訪れた時にはもうすでに。
『こうなること、知ってたんでしょ?』
きっと、あなたが哀しそうに笑い始めたその日から。