lacrimosa







笑顔で彼の元へ駆けつける。

ゆっくりと左手にかぶせた右手を開けば、そこに柔らかく佇むアンジェロの一部だったもの。




『これ、使えば元気になれるよ…』


けれど、アンジェロは力なく笑うだけ。




『それ、は…、サーシャがしあわせになるために…あげたものだよ』


首を振る動きも定かではなく、顔に近づけたサーシャの手のひらをゆるりと押し返す。


サーシャの眉が寄る。

口許を噛み締める。

悔しさ、故に。



(…なんで)



なんでこの男の子は解らないんだろう。

それが伝わらないからもどかしくて、悔しくて。

こうしている合間にも迫り来るものはあるというのに。




『だったら…、私を幸せにしてよ』

「え…」

『ずっと生きて、私を、幸せにしてよ!』


平静を保とうとしたのに、語気があがる。

想いのはけを手のひらに込めぬよう、細心の注意を払う。

柔らかな優しさが潰れてしまわぬように。




『…ねぇ』


どうしてわからないの。




「僕、死ぬなんて言った?」


冗談でしょ、と言うように笑い飛ばしたかったのだろうその顔は、失敗してただ苦痛に歪んだだけ。

憐れむのさえ、ばかばかしい。




『本当は自分で、わかってるんでしょ?』


最初から。それこそこの部屋に初めて訪れた時にはもうすでに。




『こうなること、知ってたんでしょ?』


きっと、あなたが哀しそうに笑い始めたその日から。










< 43 / 155 >

この作品をシェア

pagetop