白頭山の残光
TOKYO
 緊張しきった面持ちの金本美里をソファに座らせ、研究所長はテーブルの反対側の椅子に腰を下ろし、わざとらしい作り笑いを顔中に浮かべながら、早口で告げた。
「結論から言おう。君の疑いは晴れたよ。いや、すまなかったね。しかし、これは国家的な重大事だから、ね?」
 美里はにこりともせずに平板な口調で答えた。
「いえ、お気になさらず。こういう時に真っ先に疑われるのは、子供のころから慣れていますので」
 それを聞いた所長はあからさまに顔をしかめた。
「いや、そう皮肉を言わんでくれたまえ」
「それで、本当のリーク元は判明したんですか?」
「ああ。手伝いをさせていた学生の一人だったよ。口止めをしておいたのに、堂々と、ええと、何だったかな、ツイッターとか言うインターネットのサイトに面白半分で書きこんだらしい。まあ、内容は憶測だらけのいいかげんな物だったが、たとえわずかでもあれに関する情報が漏れるのはまずい。そういうわけだったんだ」
「そうですか、では私は?」
「ああ、もちろん職場に復帰してもらう。お詫びと言ってはなんだが、明日から一週間、休暇という事にしてある。つくばに戻るのは、来週からでかまわん。東京は久しぶりだろう?ゆっくり羽根を伸ばして行きたまえ」
 美里は立ち上がり、所長に一礼して部屋を出た。廊下へ出ると窓から強烈な陽光が差し込んで、一瞬目がくらみそうになった。まだ梅雨は明けていないが、時折雲間から降り注ぐ太陽は既に夏のそれだった。
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