妹神(をなりがみ)
 案の定、子分格のうちの二人が絹子を窓側にいきなり突き飛ばした。
「うるせえんだよ!ブスに用はねえ。引っこんでろ!」
 一人がさらに尻もちをついている絹子に蹴りを入れようとした。俺はとっさに二人の体の間に割って入った。その不良が繰り出した蹴りが俺の腰のあたりに当たる。
「い、痛。まあ、あの落ち着いて……暴力は……」
 その時、不良達の後ろから聞き慣れない女の声が鋭く響いた。
「やめなさい……それ以上はあたしが許さない……」
 俺は一瞬背中がぞくっとした。特にすごみがあるわけでもなく、どちらかというと抑揚のない棒読みのセリフみたいな言い方だが、どこか人を圧倒する迫力がある声だ。その声のした方向を見て俺は心底ぶったまげた。なんと、その声を放ったのは美紅!
「ほほう、こいつは面白え!お兄ちゃんをいじめると、あたしが許さないわよ、ってか?どう許さないのか、教えてもらおうか?カワイコちゃんよ」
 番長が美紅の体の真上から覆いかぶさるような格好で吠える。美紅とこいつじゃ体格差が大人と子供並みだ。ま、まずい。最悪の展開になっちまった。俺は次の瞬間に起きるであろう惨劇を予想して全身から冷や汗が吹き出た。が、次の瞬間に起きた事は俺の予想とは全く違うことだった。
 なんと美紅より頭二つ分は大柄な番長が軽々と宙を舞い廊下を後方に三メートルは吹っ飛ばされたのだ!美紅は右手を体の前方に突き出している。そんな馬鹿な!
「住吉さん!こ、このアマ!」
 番長の名前は住吉と言うのか。子分4人が一斉に美紅に向かって突進する。だが、また信じられない事が起きた。美紅は両手をまっすぐ前方に伸ばして正面で軽く交差させ、それから掌を外側に向けて左右に素早く開いた。すると……
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