妹神(をなりがみ)
「ヒルカン!」
 聞き覚えのある女の子の声が響き渡った。そして俺とその人影との間の地面にオレンジ色の炎の球が飛んで来た。その人影は炎を避けて後ずさりする。俺は声のした方向を見た。そこにいたのは……美紅!
 制服のままの美紅がすさまじい速さで俺たちの方に駆け寄って来る。そして悟の体に触れるとそのまま、悟を川の水の中に放り込んだ。もちろん例の力を使って、軽々と十メートルは先の川の中に、だ。そうか!俺はなんてアホだ。すぐそこに水が腐るほどあったんじゃないか。
 それから美紅は俺とその人影の間に立ちふさがった。それはあの神がかり状態の美紅だった。別人のように凛とした顔つきでオーラのような物を全身から発している。
 その人影は美紅を見てひるんだようだった。だが、グルルと獣のような唸り声を上げ美紅に向かって右手を横に払う。美紅は両腕を交差させて何か目に見えない物を受け止めるような動作をした。そして何か、衝撃波のような物が俺の体にまで伝わってきた。
 間違いない。こいつは間違いなく美紅と同じ種類の、超自然的な力を持っている。美紅が両掌を合わせて叫ぶ。
「マジャバニ!」
 頭の上から振り下ろした美紅の両手の先から、細い光、鳥の羽根のように見える光の塊が十数本、その人影に向かって飛んで行った。それをまともにくらった相手は「ギャッ」と叫んで、そのままくるりと背中を向け走り去ろうとした。だが、美紅が宙高くジャンプして、そうまるで空を飛ぶかのように俺の頭上よりはるかに高く飛んで、その人影の前に回り込み立ちふさがる。と、その人影の手元から鈍い光を放つ何かが美紅に向かって飛び出した。
 美紅もそれは予想できていなかったようで、両手を大きく振って払いのけるだけで精いっぱいだった。その美紅の一瞬の隙をついて人影はそのまま闇の向こうに走り去った。まるで闇に溶け込むように姿が見えなくなる。
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