妹神(をなりがみ)
 さらに畳かけるように質問を浴びせかけようとする俺を制して母ちゃんが腕時計を見ながら言った。
「まずは駅に戻って電車に乗りましょ。話はその中でゆっくりしてあげるわ。夕方までに長崎市へ行って人に会わなきゃいけないからね」
 そういうわけでまたローカル線で長崎市へと向かう。田舎のローカル線でまだ昼間だったから電車はがらがらに空いていた。その座席に固まって座り、俺と美紅は母ちゃんから話の続きを聞いた。
「警察もね、今回の事件では純君のお母さんの行方を捜していたのよ。まあ関係があるかどうかは分からなかったけど、純君の母親なら一応動機はあるしね」
 そう母ちゃんは切り出した。
「そして深見百合子さんの実家は隠れキリシタンの家系だったのね。もっとも百合子さん自身はそんな信仰とはもう関係はなかったと思うけど」
 それから母ちゃんはまたショルダーバッグから数枚のやや大ぶりな紙を取り出して俺に渡した。白黒の絵をコピーした物のようだ。
「何これ?」
「いいからその順番によく見てみなさい。その順番にね」
 またかよ。何が何だか分からないまま俺はその一枚目の絵を見る。ずいぶん古い時代の物のようだ。だが俺は一目見てぞっと身の毛がよだった。ちょんまげ姿の男が太い柱のような物に縛りつけられていた。そしてその柱、腰の高さあたりで二つに分かれて回せるようになっているようで、その人物の上半身と下半身が信じられない程反対向きにねじられている。俺は顔をしかめて思わず母ちゃんに文句を言った。
「なんだよ、こんな時に。こんな悪趣味な物見せて」
 だが母ちゃんは妙に真剣というか深刻そうな表情でいつになくきびしい口調で俺に言った。
「いいから、とにかく最後まで見なさい」
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