妹神(をなりがみ)
 すると母ちゃんはショルダーバッグから一枚の写真を取り出して俺の顔の前に突き出した。それは今時珍しい白黒写真でなんかピンボケっぽかった。そこには母ちゃんと同じぐらいの年の女の人の姿が映っている。母ちゃんが俺に訊いた。
「この人に見覚えある?」
「いや知らない……待てよ。そう言われてみるとどこかで見たことがあるような気がしないでもないんだけど。だいたい何なの、その写真は?」
「隆平君が死んだ後、警察でコピーさせてもらった物よ。隆平君の家のすぐ近くの銀行の防犯カメラに偶然映っていたの。この日付と時間をよく見てごらんなさい」
 そう言われて俺は写真を手に取り、左下の隅っこに小さく印字されている数字の列を見つめた。そして気づいた。それは俺たちが隆平の家であの殺人鬼に出くわした時から、ほんの二十分ほど前だ。しかも撮影されたのが隆平の家のすぐ近く。という事は……
「まさか、この女の人があの殺人鬼だってんじゃ……」
「その人の名前はね、深見百合子」
「深見……まさか?」
「そう、行方不明になっていた、深見純君のお母さんよ。そしてこの島原はね、百合子さんの故郷なのよ」
 そうか!見覚えがあるような気がしたわけだ。純のお母さんとは直接話したりしたことはなかったが、小学生の頃に授業参観とか運動会の時とか、何度か姿を見たことぐらいはあったはずだ。
 じゃあ悟や隆平や、純の遺書にあった俺の小六のクラスメートを次々に殺して回っていたのは、純自身の幽霊じゃなくてあいつのお母さん?
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