-恋花火-
それは30分前のこと。

「またいるし…」

「お、配達おつかれさーん」


祥ちゃんは呆れ顔で私を見た。

そんなのは気にしない。

店の中を通って奥に入って行く祥ちゃんを目で追う。


「祥太郎、店番お願いね」

「なんで?」

「4時から市民会館で着付けの講習会。昨日言ったじゃないの~」

「そうだっけ…」

「じゃあね、よろしく!お父さんももうすぐ帰ってくると思うから!」


おばさんはそう言って、こっそり私にウインクした。

ナイスアシスト!!

祥ちゃんは仕方なくレジ前に座って、パソコンに向かった。


「ねぇ祥ちゃん?」

「なに」

「こっちと、こっち。どっちがカワイイと思う?」


ショーケースに入ったかんざしを指差して聞いてみた。


「…どっちでも」

「なにぃ!?呉服屋のくせに、お客の相談にも乗らないの!?」

「呉服屋だから、かんざしはオマケ」


私の方を一度も見ずに、面倒くさそうに言う。

つれないなぁ。


「それより、こんなところで油売って、またバアさんに怒られるんじゃないのか?」

「いいもん。怒られるのには慣れてるし」

「それってどうなんだよ…」

「ねぇ~、どっちが似合うと思う?」


しつこいのは承知の上。

押してダメなら、押しまくれ!


「しいて言うなら…」

「しいて言うなら!?」


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