君桜

✿The past




――午前2時。


いつもならまだ聞こえる、喧嘩。


それなのに今日は何も聞こえない。


あたしと両親が会話をしなくなったのは、3か月前。


「おかえり」「ただいま」「おはよう」「おやすみ」「いただきます」「ごちそうさま」


こんな日常会話さえ、なかった。


3か月前。


ずっと無職だった父親の仕事が決まったのがきっかけ。


その日を境に両親の喧嘩は日々絶え間なく続く。


そしていつも飛び交う喧嘩の中に、いつも入っている言葉…


「早く辞めてよ!抜けてちょうだい!」


それが仕事のことなのは分かるけど、父親の再就職を希望していた母親がなぜそこまで必死になるのかが小学生のあたしには理解できなかった。


そして、父親が何の仕事をしているのかもあたしは知らない。


ただ、毎月入ってくる莫大の給料。


父親はとてもすごい仕事をしているんだと思っていた。


今となっては何をしているのかは謎のままだけど。


母親からは顔を合わせる度に「アンタなんか産まなきゃよかった。そしたらこんな思いしないで済んだのに」。


口癖。


あんな言葉が口癖。


そう考えると、笑っちゃうんだけど。


< 145 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop