冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「サークルの窓から、ひょこっと頭が出てきて、『おい、シュウ公!』って言ったのよ」

 クスクス。

 社会経済サークル。

 聞くだけで頭が痛くなるようなサークルの名前を、後で言われて驚いた。
 いや、シュウと呼ばれる男なら、何故か納得してしまいそうになるが。

 ハルコの夫も所属していたというのなら、その人も彼のようなタイプなのだろうか。

「いまは、会社の立場上シュウと呼ぶようになったみたいだけど…」

 楽しそうに笑う。

 メイの知らないカイトが、そこにはたくさん袋に詰め込まれていた。

 一つを出して見せてもらっただけ。

「だって、あのシュウの名前を、いじって呼べるような人が、しかも年下にいるなんて思ってもみなくって」

 分かるでしょ?

 同意を求められて、ついメイも笑って頷いてしまった。

 背が高くて頭が良さそうで、人がうっかり失敗しようものなら、即座に指摘しそうな堅物。

 昨日今日だけでも、彼女にはそう見えて仕方なかった。

「それからの付き合いよ…勿論、カイトは私たちのサークルには入らなかったけれど」

 何かあると、4人で顔をつきあわせてたわ。

 カイトは、年下であることをまったく気にしていなかった。
 それどころか、最初から先輩に対する態度じゃなかった。

 けれども、それが憎めなくて。

 ハルコの袋から出てくるカイトは、綺麗に磨いてあって。

 目の前に、ピカピカと並べられる。

 彼女たちが卒業した後、カイトは会社を興し、シュウを巻き込んでゲーム会社を成功させたのだ。

 そこで、初めて会社名が出た。

「え…あの会社なんですか?」

 メイは、ゲームには疎い。

 だが、あれだけテレビCMなんかされていたら、いくらなんでも彼女だって分かる。
 そんな知っている会社名の社長なのだ。驚いて当然だった。

「あら…」

 ハルコは、不思議そうにパチパチとまばたきをした。

 彼女が、余りにカイトのことを知らないのに驚いたようだ。

 メイは。

 まっとうな会話を、カイトと交わしたことがなかった。

 あるとすれば、昨日のダイニングでの宣言くらいか。
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