冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 窓の近くにあるノートパソコンの横には、まだ―― そう、まだ札束が積んだままだったのである。

 カイトは、見向きもしなかったのだ。

 うそー!!

 声にならない悲鳴をあげながら、メイは窓に手をかけたまま硬直した。

 窓を開けようものなら、風で吹き飛んでしまうのではないかという怖い予想があったのだ。

 こんな無防備に、いつまでもお金を。

 やっぱり怒られてもいいから、朝ちゃんと伝えておけばよかったと青ざめた。

「…どうしたの?」

 そんな石膏像のメイに不思議に思ったのか、ハルコが近づいてくる。

 あ!

 慌てて、それを隠そうと思った。

 知られたら、驚かれたり呆れられるんじゃないかと思ったのだ。

 しかし、窓辺から机までの距離を埋めるよりも、先にハルコの目がそれに注がれたのである。

「あら…こんなところに出しっぱなしで…どうしたのかしら」

 怪訝そうにお札の山を見るハルコ。

 それから、視線がメイに注がれた。

 こわばったままの彼女の顔を、ハルコは見ているに違いない。

「あの…えっと…その…」

 しどろもどろ。

 パニクってる時なので、うまい言葉を探せない。
 もごもごと口の中で呟いた。

「昨日の、お金の話に関係あるのかしら?」

 にこっ。

 ハルコは、笑顔を一つふりまくと、机の一番上の引き出しを開けた。

 何かの説明書のようなものが、乱雑に放り込んであるのが見える。

 その上に、ぽんとお金を置いて、また閉めた。

「あ、そうです! そうなんです!」

 助け船を出されて、メイはそれに飛び乗った。

 その辺の事情を知っているのだから、うまく話せば誤解なく――
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