冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カイトは、慌てて風呂をあがった。

 落ち着かなかったのだ。

 とにかくあがるなり風呂の栓を抜くと、頭からシャワーをかぶるだけかぶって、そのまま出た。

 バスタオルで適当に身体を拭き取って、慌てるように部屋に戻る。

 まだ心臓がバクバクしていた。

「何やってんだ! クソッッ!」

 髪からはまだ水がしたたっているのに、バスタオルを取り上げると床に叩きつけた。

 自分の狼狽ぶりが、思い出すまでもなく、すぐによぎったからである。

 誰にも見られていなかったからいいものの、これを見られていようものなら、もっと凄い荒れ方だっただろう。

 ぽたっ。

 髪からしずくが落ちて、絨毯の色を一カ所二カ所と濃くしていくが、そんなことは知ったことではなかった。

 たかが、髪の毛一本で。

「クソッッ!!!」

 自分の中のウィルスを見つけた気分で、それを無理にでも取り除くために、ノートパソコンの前に座ったのだ。

 頭が濡れていることなんか、もう意識の端にもなかった。

 集中していれば、きっと忘れる。
 一度集中すれば、寝なくても平気な自分を知っているのだ。

 新しい仕事に、意識の全てを突っ込んでしまおうと思った。

 そうすれば、いつもの自分に戻れるのである。

 ムキになって、キーボードとマウスを使った。

 他のことを考えないようにして、見える情報だけを全てにする。

 他の感覚は全てシャットダウンだ。

 視覚と触覚以外の感覚を切り離して、開発用の能力とだけ直結する。

 カチャカチャカチャカチャ。

 ガチャガチャッ、カチカチ

 夜が更ける。


 布団が干してあるなんて――まだ、カイトは全然気づいていなかった。
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