冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 寝ちまえ!

 そう自分に言って、カイトはリモコンを放り投げる。

 なのに。

「あ……あのっ!」

 ベッドの方から、驚いた声が飛んでくる。

 かぁっと頭に血が昇った。

 せっかく、彼女の存在を忘れようとしていたのに、それを無駄にされたからである。

「るせー……とっとと寝ろ!」

 カイトは怒鳴った。

 彼の身体から、メイを忘れさせて欲しかった。

 二度と、手の熱が伝染したりしないように。

「え……でも……」

 しかし、まだ食い下がる。

 オロオロとした声で。

 手が。

 カイトは、顎に力を込めた。

 そうして、くわっと開けた。

「でもも、ヘチマもねぇ! 寝ねーと犯すぞ!」

 出来もしないことを怒鳴った。

 いや、してはいけないことだ。

 スレていない女なのだ、相手は。

 何も知らないくせに、借金のカタにランパブである。

 そんな女に何かするなら、カイトはヤクザや金貸しと同じ扱いになってしまうのだ。

 彼の怒鳴りあってか、やっと静かになった。

 それに、ふぅっと息を洩らす。

 息を詰めていたらしいことに、そこで初めて気がついた。

 カチカチと、どこかで時計の刻む小さな音だけが残っている。

 慣れて気にならなくなっていた音なのに、カイトの耳につく。

 るせー。

 無意識に毒づく。

 寝返りを打って、片方の耳をソファに押しつけるようにすると、今度は、まるでソファのスプリングの中に何かいるような音が聞こえる。

 何もいるはずはないのだ。

 ただ、耳をぴったりくっつけたせいで、小さな音まで拾ってしまっただけである。

 るせーっつってんだよ!

 頭の角度を変えて、耳だけはソファに直接押しつけないようにずらす。

 少しはマシになった。

 チクショウ……。

 カイトは――無意識に、彼女に触れた手を押さえ込むように目を閉じた。

 まだ、全然眠れそうになかった。
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