冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 冷静になれば。

「るせぇ!」

 しかし、カイトはまったく取り合わない。

 怖い顔をしたまま、彼女からジャケットを奪い取ると、投げ捨てたのである。
 ベッドの端に、袖の先だけがひっかかった。

 ちがう!

 自分の頭が、ある方向に思考を進めようとするのを急停止させる。

 その方向に、進まれるワケには行かなかった。

 そんなことがあるハズがない。

 信じていた。

 そして、自分に言い聞かせた。

 これも、結局いつかの『脱げ』と同じなのだ、と。

 最後には、全然大したことがなく決着して、メイに『私のバカ…』と、自己嫌悪に陥らせるだけなのだ。

 いままでもあった、そんな怖い予感の全てを、カイトは壊してくれた。

 ずっとそうだった。

 見た目や態度は怖いけれども、本当はすごく優しい人だ。

 それだけは、知っているつもりだった。

 ずしん、と身体が重くなる。

 彼の体重が、もっと自分にかかったからだ。

 あっと思ったら、首筋がぞわっとした。

 何かが、そこに強く押しつけられたのである。

 その首の辺りに、彼の髪の感触がして身を竦めた。

 しかし、その感触に捕まっているワケにはいかなかった。

 ぐいっと身体を浮かせられたかと思うと、背中の方を彼の手が探るのだ。

 何が起きるのか分からないままだったメイは、身体を硬直させているしか出来ない。

 その手が、背中の上の方で止まった。

 ジャッッ!

 あっ!

 思った時には、また背中はベッドの上に戻った。

 カイトが、手を離したのである。

 いや、離されたままではなかった。
 そのまま、彼女のワンピースの上の方を、乱暴にむしりとったのである。

 ワンピースだ。

 完全にむしりとられたワケではなかった。しかし、上半身が激しく乱れた。

 抜け殻みたいに、腕から袖を持っていかれる。
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