冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 そんなことをしていれば、すぐに夜になる。

 彼が顔を上げる時には、もう開発部員の半分以上は帰宅していた。

 大体、好きで顔を上げたのではない。
 シュウがやってきて呼びかけたからだ。

「明後日は祭日ですが、ダークネスとのもう一つの契約の方の打ち合わせに行きますので、ネクタイで出社をお願いします。それまでに、こちらの書類に目を通してください」

 カイトの様子など、興味もないのだろう。
 シュウは、淡々と事務的なことを続けた。

 変に構われなくて、カイトの方はありがたいくらいだ。

 これがソウマなどなら、お節介に踏み込んでくるに違いないのだから。

 しかし、そのシュウが、メガネ越しに彼の顔をじっと見た。

 水槽の中の生き物を、観察するかのような目だ。

「栄養と衛生状態が悪いようですね。生活に必要不可欠な栄養素が不足しているので、それを補うのと、入浴などをお勧めします」

 まるでロボットだ。

 シュウの言葉には、全然現実味がない。

 水槽の中を見ながら、魚を詳しい学術名で呼ぶようなものだ。

 もしくは、細菌の名前をベラベラ並べるのと似ている。

 聞いている方の耳には、ちっとも入ってこない。

 既に、カイトは彼が何を言いに来たのか忘れてしまった。

 明日だか明後日だかの予定か何かだった気がするが―― そんな予定なんか聞いてもしょうがないのだ。

 どうせ、朝が来て夜が来るだけなのだから。

 それよりも。

 このゲームを完成させることの方が先だった。

 システムを作るのに手間をかけているので、MAPはまだ一つだけなのだ。

 あといくつかシュウが何か言っていたようだが、もうカイトはコンピュータの方に向き直った。


 未来のことなんか、聞きたくもなかった。
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