冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 日中はよかった。

 日差しもあったし、風も思ったほど冷たく感じなかった。

 大変だったのは。

「寒いぃ…」

 日が暮れた後だった。

 慣れているとは言え、もう一人の子がその場で足踏みをする。

 本当に、足からアスファルトに凍りづけられそうな気がするのだ。

「もう、主婦の人たちも寒いから家に帰っちゃいましたね…大丈夫かなぁ」

 まだ、山と積まれたケーキを見る。

 辺りは真っ暗だ。

 会社帰りの、コート姿の人たちが行き交っている。

 本当に、こんな街頭販売で売り切ることが出来るのだろうか。

 すごく心配になってきた。

「バカね、あのサラリーマン連中が、本当のターゲットよ」

 小さく耳打ちされる。

 家には、ケーキが既にあるというのに、子供を喜ばせるためにもう一個。

 酔っぱらいがふざけてもう一個、という風に売りつけるのだそうだ。

 膝が笑い出しそうになるのをガマンして、メイは一生懸命笑顔を浮かべた。

 かなり枯れてきた喉で、大きな声で呼び込みをした。

 目の前に男の人が立つ。

「いらっしゃいませ!」

 反射的に、メイは大きな声で応対した。

「あ、ごめんごめん…これ、カレシ」

 しかし、すぐ隣のサンタに止められる。

 見れば、オーバーを着込んだ若い男だった。

「何だよ、まだ終わんねーのかよ」

「ごめんって、分かってんじゃない…ほら、まだこんなに残ってんのよ。終わったらケイタイ鳴らすから、ね? お願い」

 サンタがカレシに手を合わせている。

 きっと、この仕事が終わった後に約束をしているのだ。

 2人でケーキを食べるのだろうか。
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