冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 カギを開け、ドアが開かれる。

「あ、その…殺風景ですけど、どうぞ」

 恥ずかしそうに、メイは部屋の電気をつけて中に入った。

 カイトも後を続く。後ろのドアを閉めながら。

 靴を脱いで上がって、そこでようやく顔を上げた。
 部屋の中を、初めてしっかりと見たのだ。

 驚いた。

 ロクなものがなかったのである。

 ガランとした室内に、3段ボックスやパイプベッドや―― そんな、貧相な家具がちょっとあるだけで、あとは何もなかった。

 メイには、ちゃんと金を持たせたハズだった。そうシュウは報告していた。

 だから、もっといい場所に住んだり、いい家具を入れたりすることは可能だったはずである。
 なのに、どうしてこんな古いアパートで、侘びしい暮らしをしているのか。

 出ていけて、幸せだったんじゃないのか。

 違う。

 彼女は、メイは―― そんなことを考えるような女じゃなかった。

 人の渡したお金の上であぐらをかいて、浪費するような女じゃなかったのだ。

 誰が見ていようが見ていまいが、何一つ彼女は変わらないのである。

 胸が荒れ狂った。

 たまらなく、愛おしい気持ちがこみあげる。

 メイはコートのまま、彼に背中を向けていて。

「あ、寒いでしょ…ストーブつけま…!」

 耐えきれなかった。

 愛しくてしょうがなくなる。好きでしょうがなかった。

 だから、その背中を強く抱きしめた。
< 815 / 911 >

この作品をシェア

pagetop