それでも朝はやって来る
真楯先生の車は通勤用とあってか、初めて会ったときの黒塗りの高級車ではなく、レトロな感じの小さい車だった。


なんか、意外かも…


ドアを開けて乗るように促された。
助手席に座ったものの、小さい車のせいか妙に真楯が近くに感じられた。


「………」


エンジン音だけが車内に響く。
何故か、お互い沈黙になってしまった。


「あっ…「あの…」」


二人同時に言葉を発した。


「…朝子様から、どうぞ」


なかなかタイミングをはかれないでいると、真楯はニッコリと微笑んだ。

車内は暗いが対向車の明かりで、真楯の顔を見ることができた。


「あ…あの…」


朝子は、膝の上に置いたバックの取っ手をギュッと握りしめた。


「あの、真楯先生はさっきのことはもう……気にしてないんですか?」


少し驚いた顔をして、真楯がこちらを見た。
朝子が顔を真っ赤にして話してるのを見ると、少し困ったような顔をした。


「………そう…ですね…」


ゆっくりと優しい手が朝子の頭をなでた。


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