それでも朝はやって来る
「あたしがどうしようと、藤咲先生には関係ないと思いますけど」


藤咲の方を向かずに答えた。


「貴方、お父様にお金で売られたんでしょ!貴方の処女の代価としては良い値じゃないの」


イライラを隠せないようだった。

藤咲は机の上を、指で叩き始めた。


「私は、八重樫 悠里の婚約者なのよ!もうこれ以上、悠里が他の女を抱くなんて嫌なのよ!!」


うっすらと目尻に涙が浮かんでいた。



「彼が……好き…なのよ。でも、私じゃ悠里を助けられないの」



絞り出すような声で言った。

藤咲は、目頭に手を当てて涙を隠そうとしていた。


「ねぇ、お願い!悠里を助けられるのは貴方だけなの!!」


眉毛を寄せて神妙な面持ちで、朝子の両肩に手をのせた。



朝子は、どことなく藤咲が気に入らなかった。

まだ会ったばかりで、どこが…と言われれば、はっきりとは答えられなかった。



保健室にはそぐわないこの香りに、得たいの知れない嫌悪感を覚えていた。


「だから、たった一度だけでいいの。悠里に抱かれて…」



.
< 96 / 199 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop