それでも朝はやって来る
「できれば、今月の満月の夜がいいわ。黄金率の力がもっとも満たされる日なのよ」


藤咲は朝子の方を見て笑っているが、本当は朝子のことなんてみていないような気がした。


「貴方からとっても甘い香りがしてきたって悠里は言っていたわ……悠里の事、好きになってしまったのね」


朝子の耳に顔を近づけて、藤咲は囁いた。


「でも、残念…藤咲家と八重樫家との結婚の話は私たちが産まれた時から決まっていたものなの。いくら貴方が悠里を好きになったからって、どうにかなるものではないのよ」

「…………」


朝子には何も言えなかった。


「貴方だって、この間の『それ』を退治した時の刀…見たでしょう。あれは藤咲家に伝わる秘宝…」


「藤咲家と八重樫家の約束のもと、父様が悠里に先日譲ったものなの…あれを受け取った時から、私たちの未来は確実なものになったのよ」


藤咲は長い前髪を掬い上げて、こう言った。


「あなたは、私達にとって単なる道具にしか過ぎないの」



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