シーラカンスの唄


………ブルッ。

そのままのんびりと昔話をしていると、不意に携帯がなった。

(なんだろ……?……あ…。)

画面を見ると、受信メールが1件。
翔からのメールだった。

《まだ仕事?》

(…………しまった。)

重樹に会って、すっかり忘れていたけれど、今日は昨日の埋め合わせに翔が家に来るはずだった。

時計はすでに8時。
いつもの私なら、とっくに仕事が終わって、家でくつろいでいる時間だった。

「どうした?」

異変に気がついた重樹が、心配そうに私を覗き込む。

「携帯、家から?」

「あ……。えと………。」

「じゃ、帰ろうか。」

戸惑う私を余所に、彼はパパッと身支度を始めた。


           *


帰りの電車に乗りながら、今日の事を思い出す。

「はい。」

「え…?」

「一応、俺の連絡先。別に変えてないけど…。」

帰り際にそう言いながら渡された紙を見ると、アドレスは本当に昔のままだった。

(…いつでも連絡出来たんだ……。)

重樹と別れてから、彼の携帯の着信音が変わって。
完全に¨他人¨になるのが怖くて。
連絡もしなかった。

だけど…
一度繋いだ手は切れてはいなかった…。






< 14 / 35 >

この作品をシェア

pagetop