三度目のキスをしたらサヨナラ
ビルの谷間に隠れた小さな青空駐車場。

街灯の明かりもあまり届かず、薄ぼんやりと相手の顔が見えるだけのその場所で、私たちはじっと雨が収まるのを待ち続けた。

フロントガラスのワイパーが規則的に動いて雨粒を切ると、その一瞬だけ目の前の視界が開ける。

だけど、それも束の間のことで。

ソウはガラス越しに外の様子を覗いては、「なかなかやみそうにないね」とため息をついた。



それからしばらくして、話を切り出したのは私だった。


「一度、レストランにいる2人を見かけたことがあったの」

「2人って、ソータさんと佐和子さん?」

「うん……」



『どんなに美味いモノだって、気を遣いながら食ったらちっとも美味しくない。だからレストランなんて嫌いだ』

──それは、蒼太の口癖だった。

だけど、佐和子はラーメンも牛丼も嫌いで、お店に入ることさえ拒んだという。

そしてその代わりに、自然食に興味を持ち、雰囲気の良いお洒落なレストランを好む、普通の女子大生だった。


私が、蒼太と佐和子が食事をする姿を見かけたのは、2人の関係を知らされて間もなくのことだ。

その時蒼太は、薄暗い照明に照らされた窓際の席に佐和子と向き合って座っていた。

そして、似合わない襟のついたシャツを着てネクタイを締め、ガチガチに緊張しながらナイフとフォークを握っていた。

無理して佐和子に合わせて、苦虫をかみつぶしたような顔で座っている蒼太を見ていると、何故か無性に悲しくなって、気がつくと私は涙を流していた。

「私、その時に思ったの。蒼太は必ず私のところへ戻って来るって」

こんな似合わないこと、蒼太がいつまでも続けられるわけがない。


だから、私は待っていよう。

蒼太が疲れて戻ってきたとき、笑って「おかえり」って言ってあげられるように。

いつも2人で笑いながらラーメンを食べた、あのウーさんのお店で──。

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