三度目のキスをしたらサヨナラ
「はい、お待たせ」

突然、私の目の前に輪ゴムをのせた彼の手が現れた。

「あ……ありがとう」

私は親指と人差し指で彼の掌の上の輪ゴムを摘む。

一瞬だけ触れた掌は、とても温かかった。

「ねえ。やっぱり駅まで一緒に行っていい?」

「え?」

私の前に立つ彼の顔を見上げると、そこにはさっきまでの泣き顔が嘘のような屈託ない笑顔があった。

「なんだかあなたのこと、放っておけなくて」

そう言うと、彼は私の前を歩き始めた。

ウーさんのお店では、あんなに頼りなさげで幼く見えたのに……。


私は、「さあ、早く」と私を呼ぶ彼の大きな背中を追って歩き始めていた。

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