三度目のキスをしたらサヨナラ
私は、彼の顔を見ないように、前を向いて歩きながら話を続けた。

「そういえば……。昨日、駅で『ミナ』って言ったよね?」

すると、彼は
「えっ!」
と驚いた声をあげた。

横目で彼を見上げると、彼の顔は真っ赤だった。

手で隠しているその口元から「はぁーっ」という小さなため息が漏れる。

動揺しているのか、彼の歩くペースが少し速くなった気がした。

「聞こえてたんだ。……ごめん。俺、つい……」

「『ミナ』って、彼女の名前?」

私がそう尋ねると、少し間があった後で、彼は小さく頷いた。


ふーん……。

泣き顔やキスより、彼女の名前を呟いたことのほうが恥ずかしいなんて、

……不思議な人。

私はみるみる耳まで赤くなっていく彼の顔を見ながら、そう思った。


「ごめんね……」

「気にしないで。彼女のこと、思い出してたんでしょ?」

彼は再度黙って頷いた。
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