三度目のキスをしたらサヨナラ
赤に変わった信号を見つめながら、ソウは肩で大きなため息をついた。

「さすがにあの店は……きつかったなぁ」

気を取り直して明るく振舞おうとしても、その口調にまだいつもの元気はない。

「……辛かった?」

「うん……≪ゲーム≫を言い出したのは俺なのにね。いきなり負けると思うとかっこ悪くて、どうしようかと思ったよ」

「ズルい。無理しないっていうルールだったんじゃないの?」

「いや、涙を我慢するほどじゃないんだ。……まあ、かなりやばいことには変わりないけどね」

ソウの顔を見上げると、言葉とは裏腹にその綺麗な瞳はすでに潤んでいた。

あと一押し……
このままいけば、私の先勝はすぐ目の前。

私はゴグッと生唾を飲み込んだ。


──だけど、そんな気持ちになったのは一瞬だけだった。

守ってあげたくなるようなソウの表情が、私の手を掴んだソウの手の温もりが、一気に私の戦意を喪失させていった。


私は何も言わずに、静かに前を向いた。


──いいよ、ソウ。

その涙。
零れ落ちるまでは、気づかないフリをしてあげる。

青だった信号が赤に変わって、再び青になるまでは約60秒。
残り時間はあと半分。

だからその間、泣くのを我慢して。
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