嘘カノ生活
「すいません…」

 
盗み聞きなんて悪いと認識しながら、俺はそれを続けた。

どうやら彼女がミスをしたようで。

彼女の謝る声が細くなっていった。
 
 
 
「他のスタッフは短期間で記載されてるメニュー全部覚えましたけど。代わりなんていくらでもいるんですから、しっかりしてくださいよ?」 
 
 
 
おいおい、あのおばちゃんキツいなー…。

と、1人あの子をかばってみたけど。
 
 
 
「…はい」
 
 
俯いていた彼女は顔をあげて、さっきまでの弱々しい声はどこへやら。

しっかりとした声で、そう言った。
 
 
 
そしておばちゃんが去った後、彼女はそのまま動かなかった。
 
泣くか?なんてハラハラしながら、見守ってる俺。 
  

彼女の鼻は、赤くなっていた。

目も、かすかに涙が滲んで。

 
 
 
 
 
だけど。  
 
だけど、泣かなかった。
 
 
強すぎる程の、目つき。
 
 
 
 
…俺は、あの表情に。
 
そう、いとも簡単に心を奪われた。
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