前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


「平日はいないじゃないですか」

こんなに早く貰われていくなんて思いもしなかった、と母さんがウサギさんおめめで俺を捉えるとオイオイ愚図る。

「絶対土日は帰って来るからさ」

土日はバイトだから、いづ屋の差し入れを土産に帰って来るよ。

慰めの言葉を掛けると、母さんがやっぱり取り消せないだろうかと父さんに視線を流した。

眉根を下げる父さんは、「話し合って決めただろ」空を幸せにする道はこれしかないんだと母さんの肩を抱く。

途端に母さんが持っていた真新しいティッシュを破り始めた。
 

「すべてっ、濱さんのせいですっ。私は許しませんよっ…、いつか会ったらど、どうしてくれましょう。あの男っ、干物にでもして食べてやりましょうか!」

「く、久仁子。怒りはご尤もだが、そう言ったって」


「裕作さんは悔しくないんですか?!
濱さんのせいで私達は空さんをお婿として送り出さないとっ……、借金の肩代わりに空さんを差し出すことになるなんて。

干物の刑だけじゃ気が済みませんっ」


一変して憤る母さんの目が据わっちゃってる。据わっちゃってるから。

八つ裂きにされるティッシュの残骸を見やった後、父さんが冷汗を流しながら母さんを宥めた。

「御堂さんは優しい方だったじゃないか」

きっと空を大事にしてくれるよ、と父さん。


「だけど!」財閥の方ですよっ、どんな意地悪が待っているか……、母さんは昼ドラを想像したのか、怖くて夜も眠れないと青褪めた。
 

「き、きっと意地の悪い継母が出てきたりするんです。
意地の悪いお姉さん二人とかも出てきたりして、空さんに家事を強いたりするんですよ! ど、どうしましょう」


……もしかしてそれ、シンデレラだったりする? 母さん。

乱心している母さんはハッと我に返り、素早く立ち上がるといそいそ箪笥の引き出しを開けた。

俺と父さんが顔を見合わせている中、母さんは箪笥前でがさごそと作業。それを終えると巾着袋を持って来て俺に手渡した。


「これは大事に持っておくんですよ」


お守りというお守りじゃないけれど、きっと役に立つからと母さんが泣き顔のまま頬を崩した。


なんか巾着の中がごろごろしているな。俺は巾着袋を開けてひっくり返した。

中から出てきたのは飴玉数個に、テレフォンカードに、千円札。あ、胃薬や風邪薬も入ってる。


「えーっと母さん。これは」

「連絡手段、ストレスを紛らわせる甘味。体調を崩した時のお薬。それからこれはご飯代です。もしご飯を食べさせてもらえなかったら、これを惜しみなく使って下さいな」
 
 
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