前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―

 

ただし。


「ゲッ、御堂先輩。俺の部屋で何をしているんっすか!」
 
  
歯を磨き、就寝の準備を終えた俺が自室に戻るとそこには寝支度をしている婚約者の姿。
 
俺の寝床であろう敷布団の上でごろにゃあしている彼女は、先に毛布をかぶって今か今かと帰りを待ってくれていたらしい。

わざわざ自分の枕を持参してくれているところが確信犯である。


「さあ寝ようか」


おいでおいでと手招きしてくる御堂先輩に眩暈を覚えつつ、「なんで俺の部屋に?」当たり障りのない質問をしてみる。


「なんでって。勿論、君と一緒に寝るためだよ。何か問題でも?」

「大有りっす! 若かりし男女が一つの布団に寝るってのはどうかと思うんっすよ! そりゃ俺達、いつかは夫婦になるっすけどっ、でもでもでも! っ、やっぱ無理っす! お部屋に戻って下さい!」
 
 
「イーヤーダ」僕は此処で寝るのだと駄々を捏ね、布団に潜ってしまう。
 
あーもう……、俺はこの部屋以外に寝る場所がないんっすよ。顔を顰めながら毛布をひっぺ返す。

「ほらお部屋に戻るっす」

障子を指差して退室命令を下すと、ぶすくれた王子が「鈴理とは寝たそうじゃないか」どっから仕入れてきたのか、イッターイところを突いてくる。

顔を引き攣らせる俺に、「彼女は良くて僕は駄目なの?」追い撃ちを掛けてきた。


「ねえ豊福。僕じゃ魅力皆無?」

 
男装少女のクセに、この上目遣い攻撃。俺は嘆きたくなった。

あの小悪魔をどうにかして欲しい。
十中八九襲う目的なのは目に見えているんっすけど!
 
「変なことはしないで下さいよ」しょうがないから許可を下ろし、けれどしっかりと釘を刺す。

どんなことがあっても、早々セックスなどと至らん真似だけはしない。

断固としてスチューデントセックスはお断り! それが俺の中のモットーである。
 

「まったくもって警戒心が強いな、君は。大丈夫、僕は襲いはしない。君から求めさせるよう少しばかり手を下すだけだから」
 

布団の中に滑り込む俺に、意地悪い笑みを浮かべてくる攻め女。

体が硬直してしまった。

逃げ腰になり、布団からそろそろと抜け出すと押入れに入っている予備の毛布を取りに行く。


無論、彼女が許してくれる筈もなく、帯を掴んで俺の体を引き戻した。

 
「ひっ」項を舐められ、身を竦めてしまう。ちゅっと唇を寄せてくる艶かしい行為に千行の汗を流した。

やばい、このまま無事に夜を明かせるとは思えない!
  

「先輩、勘弁してくださいよ!」


敷布団の上で泣き言を連ねる俺は、迫ってくる必死に御堂先輩の肩を押す。
 
ニコニコッと笑顔を作っている御堂先輩はあろうことか、人の喉に噛み付いて反応を楽しんでくる。

「学生の間は駄目ですって」ムリムリだと相手を拒むと、「僕はいつになったら」君を食べられるんだい? と御堂先輩が脹れ面になった。
 

「婚約しているんだから、つまみ食いくらい良いだろ?」

「え、だ、だから。学生の間は健全に」


「高校を卒業するまで待てと?」


片眉をつり上げる御堂先輩に、えへっと俺は手を組んで誤魔化し笑い。
 

「ほ、ほら。若いうちからシなくたっていいじゃないっすか。高校を卒業したら、えーっと大学生? 専門学生? ……駄目だ、学生じゃん。……えーっと“学生”を卒業したらかなぁ。いやでも結婚するまでは健全の方がいいのかな。じゃあ、結婚後ということに」

「……、君に任せているといつまでたってもお預けになりそうだ。もういい、君の意見は聞かない!」


「え゛? あ、ちょっと、何処触ってぎゃぁああ勘弁して下さいぃいい!」


俺達が本当の夫婦になる道のりはとても遠いようだ。

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