狂想曲
奏ちゃんは少し悲しそうに伏し目がちに言う。



「でも、誕生日の特権ってことで、許してよ」


私は信じられなくて、それでもまだ茫然としていた。

だから口から漏れた言葉は、



「血の繋がった兄妹なのに、こんなことするなんておかしいよ」

「うん」

「今のことは忘れるから、だからもう二度としないで」

「どうして?」

「だって、奏ちゃんと私に、この続きはないもの。あっちゃいけないことだもの」


私は唇を拭った。

奏ちゃんは顔を覆う。



「俺の気持ち、知ってるくせに」

「知らないし、知りたくもない!」


思わず声を荒げてしまった。



私は、心のどこかでは、それが私の勘違いであると信じる気持ちも残されたいた。

奏ちゃんはただ、妹への愛情表現が過度なだけなのだ、と。


だけど、でも、だから。



「今のは事故なの! そうやって片付けなきゃダメなの!」

「何で俺の気持ちまでなかったことにしようとするの」


呟いて、奏ちゃんは立ち上がる。



「仕事、行ってくる」


逃げたのは、私なのか、奏ちゃんなのか。


奏ちゃんが部屋を出ても、私はしばらくそこから動けなかった。

拭っても、拭っても、奏ちゃんの唇の感触を思い出して、泣けてきた。

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