狂想曲
キョウは泣きそうな顔を歪ませ、私が伸ばした手を引いた。

キョウの胸の中で、私は、これでいいんだと言い聞かせた。


キョウの背中をさすりながら、何なのかもわからない「大丈夫」を繰り返す私。



「キョウはね、私を利用しちゃえばいいんだよ」


私はキョウの耳にささやいた。

キョウの目が、私へと、真意を探るように持ち上げられて。



「急にそんなこと言い出して、何考えてんの」

「今はキョウのこと考えてるよ」


私の言葉に、キョウはふっと笑って、



「じゃあ、毎日寝不足になっても文句言うなよ」


首筋にキスが落とされた。

その唇が、私の唇へと移る。


奏ちゃんとのキスを忘れたくて、私は、より深くキョウを求めた。


キョウが好きだからなのか、それともただの、奏ちゃんに対する当てつけなのか。

わからなくなり、混乱して、でもそれが余計に快楽を色濃くさせる。



「なぁ、今度卵焼き作ってよ。すっげぇ甘いやつ。俺あれ好きなの」

「うん」

「あと、味噌汁と肉じゃが。おふくろの味みたいなやつ」

「んっ」

「俺さぁ、そういうの作ってもらったことないから。憧れてんの」


キョウは何度も私の唇をついばみながら、夢見がちに言っていた。

私たちは、この、音のない部屋で、楽しいことばかりを語らい合う。


だって私たちの過ごす現実の世界は、少し、辛いことが多いから。

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