狂想曲
「他のやつらには言うなよ?」

「言いませんよ。言うわけないじゃないっすか。キョウさんがべろんべろんになってカノジョとイチャイチャしてるだなんてこと」

「てめぇ、その耳、ピアスごと引き千切るぞ」


煙を吐き出しながら言ったキョウの台詞にも、バーテンは動じることはない。



「でも、マジで驚きましたよ。キョウさん今まで女の噂まったくなかったから、実はホモなんじゃないかって思ってたんすけど」

「何でだよ」

「だってね、3年前にいきなり現れて、トオルさんに気に入られて、すぐに有名になっちゃって。俺、そんなキョウさんのこと狙ってる子たくさん知ってますもん」


何の嫌味なんだろうか。

私が聞き流してギムレットを飲んでいると、キョウは舌打ち混じりに言った。



「うるせぇ。黙れ」


バーテンははっとしたように私を一瞥し、



「あ、そうっすよね。俺邪魔しすぎちゃいましたね。すいません。じゃあ、ごゆっくり」


耳のピアスを光らせ、去っていくバーテン。

一気にシラケた私たち。


私は籐のカゴの中からチョコレートの一粒を取った。



「やっぱ大人しく家で飲むべきだったな。うるせぇのに茶々入れられるし、ヤレねぇし」

「だね」


適当に相槌だけを返す私。



キョウの知り合いは、当たり前だけど、私の知らないキョウを知っている。

私の知ってるキョウは、ほんの一部分だけなんだと思い知らされる。


だけど、もう、余計なことを聞いて昨日のようにはなりたくないから、私は言葉少なのままでいた。



「帰ろうよ」


言ったのは、私。

やっぱり私たちの世界はあの部屋の中にしかないのだろうから。

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