狂想曲
からかわれたのだろうか。

私はひどい目眩がした。


キョウさんとやらは手に持つアルコールグラスに口をつける。



「始末しといたから」

「何が」

「あんたを拉致ったやつら。いや、正確に言うと、ある女を拉致させようとしたのに失敗したやつら。始末した」

「意味わかんない。始末って殺したってこと?」

「殺してはいない、けど。詳しく聞きたい?」


目線が私へとずらされる。


私は首を横に降った。

世の中には知らないでいる方がいいこともあるのだし。



「あの時、何で私を助けてくれたの?」


主犯格らしきこの人と、どうして私はこんなにも普通に会話しているのかと思う。

地鳴りのような重低音が、私たちの会話を他から隔絶する。


キョウさんとやらは「さぁ?」と肩をすくめ、



「あんたさぁ、間違ってもあのこと警察に言おうとか思うなよ」

「別にそんな面倒なことするわけないじゃん」


お父さんが死んだ時のことを思い出す。

何度も何度も、思い出したくないことを代わる代わる執拗に聞かれた私の中には、警察に対するマイナスイメージしか残されていないのだから。



「あなたは悪い人なんだね」

「そうだな。まぁ、いい人じゃないわな」


横で男はグラスを傾けながら、あっけらかんとして言い放つ。



「俺は“悪いやつ”で“怖いやつ”だ」


呆れの次にはなぜだか笑いが込み上げてきた。

久しぶりに声を立てて笑った気がした。
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