狂想曲


キョウも記憶の糸を辿るように、ふうっ、と息を吐いた。

私はそんなキョウを見た。



「私、あの時の男の子に――キョウに、また会いたかった。こんな形じゃなく、あの公園で、また会いたかったのに」

「あの後すぐ、律が奏の妹だって知った。だから会えるわけがないと思った」


私の手を握るキョウの手が、震えていた。

キョウは悔しそうに「ごめんな」と声を絞る。



「あのまま、何も知らないままでずっといられてたら、って、いつも思ってた。そしたら“今”が変わってたんじゃないかって」

「………」

「せめて何かひとつでも違ってたら、俺は――俺たちは、こんな風じゃなかったかもしれないのに、って」


ひとつ後悔があれは、それはやがてすべてに派生する。

キョウの気持ちが痛いほどに伝わって。


私は僅かに震える息を吐いた。



「ねぇ、キョウ。私たち、“あの日”からやり直そうよ」


前に進むために。

何より、百花が言ったように、私もキョウとの未来に賭けてみようと思った。


『それでもダメだったら仕方ないけど、その時間は無駄じゃないじゃん?』と、百花が言った通りだと思う。



「そうじゃなきゃ、私たちはずっと後悔を抱えて生きていくことになる」

「俺は“川瀬の息子”だよ。それに、奏じゃなくて、どうして俺?」

「もう、あの人形も、ピアノもないけど、私は本当のキョウを知りたいの。話して聞かせてほしいの」


キョウは私の手を両手で握り、それをひたいにつけた。

泣いていたんだと思う。


でも、私も泣いていたから、笑ってあげることはできなかった。

< 183 / 270 >

この作品をシェア

pagetop