狂想曲
キョウはじゃれ合うように私に覆い被さった。

キョウの瞳が落ちてくる。


私は舌を出し、



「惚れた弱味ってやつだね、キョウ」

「いやそれ、律にだけは言われたくないんだけど。っていうか、ほんとマジで黙らないと口塞ぐよ?」

「私のこと好きなくせにー」


それでも言った瞬間、本当に唇が塞がれた。

お酒と煙草の味のキスに、くらくらして。



「好きだよ。悪い?」

「んっ」

「嫌いになれれば楽になれんのにって、何度も思ったのに、ダメだった。頭おかしくなりそうだった。そんくらい好きなんだよ、俺、律のこと」


ついばむようなキスが繰り返される。

キョウは泣きそうな目で私を見つめながら、



「すっげぇ愛してんのに、何で俺じゃダメなんだよ」

「……キョウ」

「俺さぁ、結構頑張ったと思うんだけど。できることは全部やったつもりだったのにさ」


絞り出すようにキョウは吐き出す。



「せめて、律が奏を好きだって言ったら諦められたのに。だけど、そうじゃないくせに、どうして俺でもダメなの」

「………」

「好きでもないやつにこんなことされてんのに、嫌がれよ。じゃなきゃ、俺は」

「いいよ」

「……え?」

「いいよ、キョウ」


漠然と、これが私とキョウの“最後”なんだろうな、と思った。

だから私はキョウの体を引き寄せた。


キョウもまた、それをわかっているのだろう、私の肩口にしばらく顔をうずめた後、



「ほんとに俺、何でこんなやつがいいんだか」
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