狂想曲
「ねぇ、何でそんなこと聞くわけ?」


百花は少し怪訝な顔。



「わかんないけど、聞いてみたくなったの。私、お酒飲んだりご飯食べたりするだけで幸せだとは思えなくて」

「………」

「じゃあ、どうしたら幸せだと思えるんだろう、って」


百花は息を吐いた。

そして私をその瞳の中に収め、



「誰かに愛してもらいなよ。そしたらその人といられるだけでいいって思えるから」


ふと、脳裏をよぎったのは、キョウの顔だった。

でもあの人が私を愛することはない。


あの人は、私なんかじゃない、他の誰かを愛しているのだから。



「っていうか、あたしとしては、あんな素敵な兄の顔を毎日拝めるだけで、それなりに幸せだと思えるけどね」


奏ちゃんといると息苦しい。

でも、息苦しいと思いながらも、私は奏ちゃんをひとりにはさせられない。


矛盾してて、だから余計に息苦しくなって。



「奏ちゃんの話はいいよ」

「何よ、喧嘩でもした?」

「そんなんじゃない。言いたいこと言い合って、喧嘩できたらまだいいけど」


私は自嘲気味に呟いて、テーブルにうな垂れた。

百花は「わけわかんない」と肩を落とす。



「あんたさぁ、何があったか知らないけど、あんま奏くんに心配かけない方がいいよ。奏くん、よくあたしに電話してくるんだよ?」

「私にはひとつも電話してこないで、百花に私のこと聞くだなんて、まわりくどいことするね」

「ちょっと、何言ってんのー?」


百花は本気でうんざりした顔をしていた。

私は久しぶりに泣きたくなった。

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