雪解けの頃に
 そんな雄一にとって、理花さんとの電話がとても励みになっていたんですよ。

 “理花は自分の努力で海外の本社で働く道を切り開いたんだ。

 だから、俺だって努力すれば、きっと良い状態に向かうはずなんだ。

 向こうで頑張っている理花の声がなによりの薬だよ”と言うのが雄一の口癖でした。

 
 電話の後のあの子は、いつも晴れやかな表情をしていました。


 毎日のようにあなたと話すことで、雄一の気持ちは落ち着き、少しずつではありますが、治療の効果が表れ始めていました。

 おかげでクリスマス前には外泊許可が出て、その日、家に向かう途中で理花さんへのプレゼントを買いに行ったんですよ。
 
 長期の治療で足の筋肉が大分衰えていたので雄一は車椅子での移動でしたが、表情はとても明るくて。

 大きなデパートの売り場に並べられたたくさんの品物をじっくり眺めては、手に取り、雄一はとても真剣でした。

 親へのプレゼントだって、あんなに真剣には選ばないでしょう。

 それだけ、あの子にとって理花さんは特別な存在なんですね。

 雄一があまりに時間をかけて品物を選ぶので、付き添った主人のほうがバテていたほどなんですよ』

 
 理花はここで、軽く息をつく。

 そして、クリスマスのことを思い出した。
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