雪解けの頃に
 雄一とのやり取りを思い出すたびに、自分がどれほどに大切にされていたかを思い知らされる。
 

 私はあなたに何もしてあげてない。

 なのにどうして、こんなにも大切にしてくれたの?

 雄一の優しさが、今となっては切ない。


 理花は手の甲でグリグリと涙をぬぐい、必死で読み続けた。




『2月の10日頃だったと思います。
 
 普段昼過ぎにならないと起きない雄一が、その日は珍しく朝から目を覚ましていて。

 近頃の雄一は現在と過去の区別がつかなくて、話をしていても、かみ合わないことが多かったんです。

 でも、この時ばかりは意識もはっきりとしていました。

 壁にかけられたカレンダーを見て、“そろそろ用意をしなくちゃ……” と、つぶやきました。

 
 私は“何のこと?”と聞き返しました。

 すると、“理花の誕生日プレゼントを取って来てほしい”と言ったんです。
 
 
 すっかり血色の悪くなった青白い頬をほんのり赤らめて。
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