天体観測
「ホンマに大丈夫?」

二人が出ていった後、最初に口を開いたのは、恵美だった。それまで僕らはダイニングの椅子に座り、ぼっーと庭を眺めていた。

「きつくないと言ったら、嘘になるな。精神的にも、肉体的にも。でも、そんなこと言ってられない」

「そうやね……私には、頑張ってしか言われへん」

「それだけでいい。それだけで精神的にはずっと楽になる」

「ホンマに?」

「冗談に聞こえたか?」

恵美が小さくかぶりを振って、僕は、椅子ごと恵美に近寄って、僕らは口づけを交わした。僕は、これだけで今日一日を乗り越えることが出来るに違いなかった。僕らが離れた後、僕はその想いをそのまま言葉に乗せて、恵美に伝えた。

「じゃあ、もう一回したら、明日も保つんかな?」と、微笑みながら、恵美が言った。

「今日のエネルギーにはなるかもしれないけど、明日のエネルギーになる保証はないな」

「そこは冗談でも、『もちろんさ』とか言ってみようや」

「明日もう一回、してみたらわかるよ。明日が大丈夫だったら、明後日も、十日後も、百年後だって大丈夫さ」

「そんなヨボヨボになっても、キスしてくれんの?」

「恵美が望むなら」

「じゃあさ……」

恵美が、マスターのように、僕の耳元で囁いた。僕はそれに、声を出して笑った。

「笑わんでも……」

「悪かったよ。じゃあ、望みどおりに……」

この瞬間、世界が終わっても、きっと僕らは気付きもしなかった。今日二回目のキスは、夏の匂いだった。

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